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頭の良くなる 短い、短い 文章術
- 2005/10/20(木) 17:22:15
轡田隆史 著/ 三笠書房 刊
頭の良くなる「短い、短い」文章術
お勧め度・良 ☆☆☆★★
「短い言葉はいい言葉である」とはチャーチルの言葉です。不利な戦局のなかで英国民を指導しなければならなかった彼は、意図的に短く強い言葉を使ったのです。
チャーチルを尊敬しているという小泉総理もまた、ワンフレーズと揶揄されながらも短い言葉をつかいます。短い言葉はわかりやすく、虚飾をまとっていないから美しく、率直だから強いのです。
この本は短い言葉の重要さと、短い言葉で文章を書いていく技術を解説しています。新聞記者であった著者は八年にわたって210文字のコラムを毎日書いていました。その経験が筆者に文を書く技術をあたえたのです。
その技術は徹底して実用的なものです。句読点の打ち方、題材のとり方、漢字とひらがなの使い方など色々ありますが、いずれも明快です。この技術を使えば冗長な文章はその姿を一変させます。例えば、以下のような文章があります。
町から山の中に約十キロ入った谷間の集落に生まれた私はそこの小規模な分校に五年生迄通った。今居る所からそこに行って三十年振りに分校を訪ねて見たら過疎の為人口が減ってとっくに廃校になって居るのであった。私達皆が元気に勉強して居た校舎は消えただ一面野原の様にぼうぼうと夏草が生い茂って居たのである。我々ここに居た子供達皆の夢だけが草の蔭に今もひっそりと隠れて居る様に感じられてならなかったのである。
筆者の技術を総動員してこれを直してみると、以下のようになります。
山の中に十キロほど入った谷間の集落に生まれたわたしは、そこの小さな分校に五年生まで通った。三十年ぶりに訪ねてみたら、過疎でとっくに廃校になっていた。みんなが元気に勉強していた校舎は消えて、ただ夏草が生い茂るばかりだった。子どもたちの夢だけが、草のかげに、ひっそりと隠れているようだった。
(p202-203)
わたしが読んだところでは、筆者の「文章術」には3つのポイントがあります。
・心をよく働かせること
・虚飾を廃すること
・ちょっとしたセンスを加えること
第一はふつう「文章術」とは呼ばれないものです。「術」といえば、表現をどうするとかいった細かいテクニックのことだろうと連想するからです。しかし筆者は、そんなことはない、そんな小手先の技でいい文章がかけると思っているから何も書けないのだ、と喝破します。そして積極的に外に出ること、盛んにメモをとること、月並みなアイデアはこれを二度退けて三度目に浮かんだ観点から書くこと、などを勧めます。
第二の「虚飾を廃する」とはまず虚なるものを廃し、さらに無用の飾りを廃するということです。例えば以下は虚なる文章です。
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謹啓 梅雨の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。・・・・・
まったくの決まり文句です。人が書いた文ではなく、パソコンの用例集に過ぎません。例えばこれを、以下のようにします。
謹啓 いつになく強い雨で梅雨にはいりましたが 、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます
梅雨のうっとうしさに、北海道の爽やかな空がうらやましいような日々です。ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。(p154-p156)
次に、以下は無用の装飾をつけた文章です。
空はどこまでも果てしなく広がって、まるで底がないように青く深く澄み渡り、いくつもの雲が羊の群れのようにぽっかり浮かんで、そよそよとほほをくすぐるようなやさしい風に乗って、滑るように流れていった。(p105)
これから装飾をとっぱらうと、こうなります。
澄んだ青空に小さな雲がいくつもゆっくり流れていた。そよ風が吹いていた。(p105)
第三の「ちょっとしたセンスを加える」には色々あります。センスといっても書き手によって好みが色々だからです。そこで筆者は、例えばこのような方法がある、あるいはこういう手段もある、といくつも例をだしてくれています。
その要点は二つです。
一つは想像力を働かせるということ。
もう一つは換骨奪胎をするということです。
山の中に十キロほど入った谷間の集落に生まれたわたしは、そこの小さな分校に五年生まで通った。
三十年ぶりに訪ねてみたら、過疎でとっくに廃校になっていた。
みんなが元気に勉強していた校舎は消えて、ただ夏草が生い茂るばかりだった。
子どもたちの夢だけが、草のかげに、ひっそりと隠れているようだった。
(p202-203)
この例文にもその二つが使われています。最後の一文の「夢だけが・・・隠れているようだった」は想像力の産物であり、かつ松尾芭蕉の「夏草や兵どもが夢のあと」と踏まえたものです。
筆者の実用的な文章術は、さまさまなことに応用できます。日記、記事、詩、メール、ビジネス文書、日常会話、スピーチ。筆者が教えてくれるものは、そのような確かな技術です。
こういう人が残っていれば、朝日新聞もこんな社説を出すことはなかったでしょうに。
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